『Happy Birthday』

「……まだ?」
「まだです、部長」
今日は私の誕生日。
後輩たちが何か用意しているだろうと予見していたけど、アイマスクをつけられて腕を引っ張られるなんて……そんな古典的な演出が待っていたとは。
「部長、もう取って大丈夫ですよ」
言われるがまま、耳にかけていたアイマスクを取り外す。
「ここは……って、な、何これ!?」
どこに連れて行かれるかと思えば、元いた場所……美術室に戻っていた。
私は、美術室を出た後長い時間をかけて校内を徘徊し美術室に帰って来た、という事になる。
と、それよりも。
「これは一体……」
室内に広げられた屋外用のビニールプール。
中は茶色いクリーム状の液体で満たされている。
「この甘い匂い……もしかして、チョコレート……?」
「ピンポーン、正解です! 部長、以前言ってましたよね。チョコレートの中で泳ぎたいって」
「……ま、まあ言ったけど、それは言葉のアヤで……」
「今更そんなのはダメですよ、せっかく用意したんですから」
いやいやいや……これに、入れと?
「部長、言ってたじゃないですか。何気ない言葉には本音が表れるって」
「んん……それも、言ったけど……」
「そ・れ・も! 言葉のアヤだって言うんですか!」
美術室にいた他の後輩にも詰め寄られて、ビニールプールに追いやられる私。
「ああもう! 分かった、分かったよ。入れば良いんでしょ」
こうなったらヤケだ。どっち道ここから逃げられるような雰囲気じゃない。
「それじゃあ思い切って行きましょう、部長! ダイビングです!」
「は?」
「こーゆーのは勢いが肝心なんですよ!」
「それはちょっと……って、うわっ」
腰の辺りをガツンと押され、緩やかなくの字になってチョコレートプールへ飛び込んだ。
甘い、甘いんだけど……このチョコレート、結構粘性が強くて重い。
目元のチョコレートを拭って、とりあえず起き上がる。
白のセーラー服は首からスカートにかけてべっちゃりとチョコにまみれ、悲惨な状態だった。
「こ、これっ……濃っ!」
足元が悪い中立ち上がろうとするとバランスを崩してしまって……。
「きゃっ!」
今度は尻餅をついてしまう。
「部長、心配いりません! シャワー室と着替え、用意してありますから。堪能してください!」
「これを、どうやって、堪能するのよっ!! あ、きゃあっ!」
もう一度立ち上がろうと力を込めた所でまたチョコに足を取られ、べちゃっと背中から倒れる私だった。

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