『Is it warmth? or…』

2012年。
頭に思い浮かんだのは数年前話題になった洋画。
その映画の中で、この年はなにやら重要な年らしい。まぁ見に行ってないし、詳しくは知らないけど。
私は普通の一年であってくれれば良いと思う。
普通。普通かぁ……。
普通ってなんだろう。普通という言葉は極めて抽象的だ。
それは、普通というカテゴリーの範疇が主観によって違うから。
なら私にとっての普通とは……。
「裕香……ねえ、裕香ってば」
「はっ」
鳴海に肩を叩かれてようやく意識の中から脱出する。
ちょっと考えすぎちゃったかな。
今は……そうだ、鳴海と下校中だった。
「大丈夫? 最近ボーっとすること多くない?」
「そ、そう?」
「疲れてるんじゃない? 最近残って勉強ばっかしてるじゃん」
「まぁそうだけど……」
確かに、最近は自習室に残ることも多い。
自覚はしてなくても疲れがたまっているのかもしれない。
「たまには息抜きとかしたら?」
「息抜き?」
「そう、買い物行ったり、遊んだりとか」
「うーん……」
「もう、ちょっと付き合って」
鳴海が私の制服の袖を掴んでずんずんと前に突き進んでいく。
「えっ、私の家あっちなんだけど」
「いいから」
私は抵抗することなくそれに付いて行く。
周りの風景を見ているうちに、鳴海がどこへ向かおうとしているのかが分かった。
「ここ、鳴海の家だよね?」
「そう」
何度か訪れたことのある鳴海の家。
確か私がここに来るといつも……。
「わんっ、わんっ!」
「きゃあっ!」
庭先のセントバーナードの洗礼を受けるわけで。
「あはは! そういえば裕香はぷー太に気に入られてたんだったね」
「ねぇ、ちょ…重い~、助けてよ……」
動物が苦手ではないけれど、流石に背丈が私と変わらないくらいの大型犬がのしかかってくるのは一人じゃどうしようもない。
「ぷー太はセントバーナードなのにアクティブだからねぇ。ほら、ぷー太。どいてあげて。裕香が困ってる」
「……はぁ、助かったぁ」
「大丈夫?」
「なんとか」
「じゃあ、本題ね。ちょっと待ってて」
鳴海が家の裏へ回っていく。何か持ってくるつもりなのだろうか。
……………。
……。
これがまた長い。
たぶんもう十分くらい経ったと思う。
玄関の呼び鈴を鳴らそうとしたその時。
「ごめんごめん、待たせちゃって」
鳴海が持ってきたのは……バケツ?
「なんでバケツ?」
「羽つきやろうよ」
「へ?」
「ほら持って」
鳴海が私に羽子板を握らせる。
「ほら行くよー」
清々しい音が響いて羽根が放物線を描いて私の元へ。
それを打ち返そうとして……
「そらっ」
……。
するはずの音がしない。
「あれ……」
「はい裕香の負けー」
「え……きゃああ!」
胸元に冷たい感触。しかもかなりの冷たさ。
「負けたら水かけ、だからね」
ニヤリと浮かべたその快哉の笑みが、私の闘志に火をつけた。
「こんのー!」
バシッと強く羽根を打つ。これを鳴海が返しきれなければ……。
……カッ!
「返した!」
「そりゃあ、あたしだって裕香に負けたくないもん」
「なら、これで--」
バシッ!
「あっ……」
鳴海が私の一撃を返し損ねた瞬間だった。
「やった!」
「……やっちゃったなぁ」
「さっきのお返しよ!」
私はバケツを持ち上げてその中の三分の一くらいをいっきに鳴海にぶち撒けた。
「っ冷たっ!! ってか、かけすぎ!」
「いくらかけようが自由よ!」
「ならこれでどう、よっ!」
鳴海の強烈な一撃。
私は研ぎすまされたその感覚を生かして着地点を予想する。
相手にちゃんと返せる角度に板を傾けて、それを返す。
音とともに羽根は空中へ。
「それっ」
速い!
その羽根は気持ちいいくらいに速かった。
それは当然、私の感覚でも捉えきれなくて……。
「っしゃああ! あたしの勝ちね」
「ま、負けた……」
悔しさのあまり私はその場でへたり込む。
「それじゃあ、罰ゲームってことで」
鳴海がバケツを持ち上げる。
……あれ、妙だ。傾き方が尋常じゃない。それはもう全部かける勢いなんじゃ……。
気づいたら私は両手を地面につけて後退りしている。敵に追い詰められる映画のワンシーンのようだ。
「え……」
「……いくらかけようが自由なんだよね?」
「いや、限度ってものが……」
まるで悪人のようなその微笑みは、降り注ぐ冷水にかき消されていった。

——————————————

~あとがき~

三年くらい前に上げた作品です。ちょっぴり修正してます。
WET系ではお気に入りの作品。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。