『No title』

今日は収穫祭。
私が住むこの田舎の伝統的な行事で、大昔から続いている。
畑が連なる先の広場にテントや出店が並び、収穫された野菜や果物が綺麗に並べられていた。
サツマイモ、栗、梨などを一斉に収穫して、食材に感謝するという日本ではあまり見ない祭だ。
私は学校帰り、三時頃に家に帰る前に祭に寄っていった。
「出店で何か買おうかな~」
そんな事を考えている時だった。
少し離れた所に人混みが出来ていて、笑い声があがっていた。
「なんだろう?」
人混みの中を掻き分けて前へ前へ進んだ。
ようやく人混みの中心が見えた。
すると、何人かの中学生や高校生がレンコン畑に飛び込んでいた。
全身泥にまみれ、収穫の喜びを表現しているのかしらないが、何か異様な光景だった。
何かもっと面白いものかと期待した自分がバカみたい。
踵を返して、再び人混みを掻き分けて帰ろうとしたその時だった。
ビールや焼酎で少し酔っ払い、機嫌がよくなった四十代の男性たちが、我先にと飛び込もうと急いだ。
私はその集団に巻き込まれた。
「ちょ、ちょっとやめてよ!」
全力で押し寄せる人混みを通り抜けようとしたが、私はその巨大な力に勝つことは出来なかった。
ふわりと体が浮き、太ももにスカートの裾が触れたのがわかった。
私の手からスクールバッグは離れ、そのまま背中からレンコン畑――黒い泥沼の中へ倒れこんだ。
「はぶっ!」
泥沼に倒れこむ前に、咄嗟に息を吸った。
鼻のなかに泥水が入り込み、苦味が喉の奥から伝わってくる。
トロトロしたような泥で、私の体は一瞬で泥沼の中に埋まった。
「おい!女の子が落ちたぞ!すぐに上げろ」
という、この声だけは聞こえた。
何も見えない泥沼の中、体を動かしてもグチャリと音が聞こえるだけだった。
制服のワイシャツの胸元からも泥が入り込んで気持ち悪い。
しかも強い粘性があるような泥で、髪が引っ張られるような感じだった。
何人かの男性が「せーの」と声を合わせて私の体を泥沼の中から持ち上げた。
制服から糸みたいなのがひくほど粘性があった。
ゆっくりと目を開くと、私の姿を見て、「うわ~」と軽蔑したような目で見る同級生の姿が見えた。
複数人の男性に運ばれながら、『名物、ネバネバレンコン畑』っいう看板が目に止まった。
救護所に着き、シャワーを使って泥を落とした。

「ただいまー」
「おかえ……」
私の姿を見たお母さんは絶句した。
もちろんびしょ濡れ。
制服を着たままシャワーを浴びたから。
「ど、どうしたのその格好」
「ちょっと遊んだだけ」
私は静かに微笑みながら、家に上がった。

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