『The Nightmare Again』

白髪混じりのキャスターが大きなモニターを使って説明する。
『南から上がってきた高気圧のおかげで、今日は全体的に晴れとなるでしょう--』
「今日も晴れか……」
あの惨事から既に三日が経とうとしていた。
いくら人に見られなかったとはいえ、ローションにもがいていた自分の哀れな姿を想像すると今でも恥ずかしい。
あれは忘れよう。そして二度と思い出さないようにしよう。
さっと気持ちを入れ替えてスクールバッグを背負い直す。
戸締りを確認して、私は学校へ向かった。
今日も学校生活が始まる。頑張らないと。と言っても今日は午前で授業が終わるけど。
学校について早々着席した私は一時限目の準備をする。
するとその時、
『楠柚さん、今すぐ生徒会室に来て下さい。繰り返します。楠柚さん、今すぐ生徒会室に--』
聞き間違いではない、今呼ばれたのは私だ。
あまりに突然の呼び出しだったので面を食らってしまう。
だって本来生徒が呼び出されるような時間じゃない。授業開始まであと三分だ。
「何なの……」
ため息と共に席を立って生徒会室に向かう。
あの時のことがバレた? そんな、まさか。
不測の事態に備えて構えたいけれど、先生が廊下を歩く中あからさまにそれは出来ない。
そんなことを考えている内にもう生徒会室は目の前だ。
コンコン。
「……楠さん?」
生徒会長、桜坂亜夜乃の声だ。
「……はい」
「入っていいわ」
「失礼します」
ドアを開けた途端に強い陽光の洗礼を受け、思わず目を手で覆ってしまう。
亜夜乃は光源の方、会議用に四角形を作るように並べられた四つの長テーブルの一番奥に座っていた。
逆光のせいで今は黒い影しか見えない。
「千香、優羽!」
次の瞬間、左右からいきなり現れた二人の女子生徒に腕を強く掴まれる。
「しまっ……!」
手が使えないのでは抵抗できない。
とっさに足を出そうとするが、一瞬見えた幼い女子生徒の顔のせいでそれは憚れる。
あっという間に両腕は背中に回されロープで縛られていた。
「ちょっと、何のつもり!?」
体を乱暴に揺すってみるがビクともしない。
「この間は世話になったわね」
亜夜乃はゆっくりと立ち上がって私の方へ近づいてくる。
「……少しは目が覚めた?」
「いえ」
「目的は何?」
「楠柚、あなたを中心とする生徒会執行部反対勢力の事実的消滅」
「それは無理。絶対に」
「…………」
「…………」
「……はあ。それなら、こっちにも考えがあるわ。千香、優羽、彼女を連れてきて」
「わかりました」
地蔵の如く動かなかった二人が私のロープを解き始める。
「ああ、安心して。あなたの欠席は既に知らせてあるから」
「…………っ!」
主導権は完全に亜夜乃の手中にあった。
この状況を打開するには--。
移動中必死になって思考回路をフル回転させる。
だが悲しいかな、人の頭はオーバークロックしてもアイデアが浮かぶとは限らない。
主導権を打ち崩すタイミングを逐一謀っていたことが、裏目に出てしまったのかもしれない。
外はすっかり曇りだしてしまっていた。

「……ねぇ」
「何だ」
「ローションは好き?」
「なっ」
私は校庭に連れだされていた。
それも校門にかなり近いあたり。
手足は椅子に固定され、さっき縛る際に引っかかったのか左足のソックスが乱れている。
「ドロドロになるのは好きかしら?」
「な、そんな訳……!」
「まぁ、試したほうが早いわね」
「えっ……」
「それじゃあ二人とも、彼女にあれを」
「わかりました」
千香と優羽の近くに置いてあったダンボールから、白い粉の入った袋が取り出される。
二人はその粉を無表情で私に浴びさせた。
「ふ、ゴホッ……ゴホッ。なに、これ……?」
顔から胸にかけて集中的にかけられたのでむせてしまう。
小麦粉にも似た粉。でも何か他のものにも思える。
「ちょっと変わった粉でね。水で溶かすとローションになるのよ」
「え、それって……」
私を再びあの液体にまみれさせるということ……。
またあんな思いをしなくちゃならないなんて。
「ちなみに、最新情報で今日は夕立だそうよ。あと数分で降りだすと思うわ」
「嘘……」
「それと、今日は二時限目で授業が終わる人がいるみたいだから」
つまり、私がローションまみれの醜態をみんなの前で晒さなければいけないということだ。
「今ならまだ間に合うわ。解散発表する気になった?」
「……しない」
「本当に強気ね。呆れちゃうわ。まぁそれならローションまみれになってもらうまでだけど」
見計らったかのようにポツポツと雨が降り出してくる。
「それじゃ、楽しんで」
「ま、待って……!」
私の声は虚しく、フリルであしらった傘を広げて亜夜乃は颯爽と校舎に消えていく。
私の想いとは裏腹に、雨はその勢いを次第に増していった。
制服にかかった粉がゆっくりと解け出して粘ついた液が残る。
液体となったことでローションは胸から腰へ、そしてスカートから糸を引いてずるりと滴る。
この言葉で形容し難い感触……。
チャイムの鳴った少し後に、昇降口から出てくる数人の女子生徒が見えた。
「うぅ……」
光に反射してテカテカと光る制服。
スカートを通して太腿に染みてきたローションが私をくすぐった。

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