『Speaking of autumn』

文化祭が終わって一週間。
と言っても部員数二人の私たちパソコン部は何の出し物もなかったのだけど。
今日も参考書片手にマウスを転がしている。
「先輩」
私の後ろにいるもう一人の部員、智美がキーボードを叩きながら私を呼んだ。
「何?」
モニターに顔を向けたまま答える。
「秋です」
「うん」
「食欲の秋です」
「うん」
「芸術の秋です」
「……うん」
「粘着の秋です」
「は?」
初耳のフレーズに思わずマウスから手を離して椅子をくるりと百八十度回転させる。
智美はとっくに私の方を向いていた。
「なぜ粘着?」
執念深く、ということだろうか。
「という訳でとりもちシートです。スーパーの特売日に買ってきました」
智美がシートをカードゲームの手札のように広げて見せた。
「粘着って、そっち!? って言うか学校で何を捕まえるのよ」
「先輩、用途に縛られちゃダメですよ」
「どういうこと?」
「戯れましょう」
智美がとりもちシートの一枚を私の胸元に押し付けた。
「……」
ぺったりと制服に貼り付いたとりもちシート。
端を摘まんで引っ張るが、糸を引いて全く剥がれない。
「ちょっと、何これ! 取れないし!」
「先輩もどうぞ。これでおあいこです」
スッと差し出されるとりもちシート。
受け取ったは良いが……。
「おあいこって、被害が広がるだけじゃ……」
「後のことは忘れてください。払拭剤の用意もありますので。スクバに入ってます」
パソコン室の端のロッカーに視線をやる智美。
「そういう問題じゃないでしょ!」
「先輩、言い忘れてましたけど、既に足元にも敷いてあるんですよ。先輩が座ってるその椅子も、塗布済みです」
「えっ……」
椅子から立ち上がろうとすると、背凭れのとりもちがぬちゃりと音を立てて邪魔をする。
勿論足元も同じような状況だった。
「もう、これどうするの……」
「心配には及びません。私も足元のとりもちで動けませんから」
「はあ!? 誰が払拭剤取りに行くの?」
「パソコン室の前は滅多に人通りませんからね……とりもちと格闘してスクバまで辿り着きましょう」
「っ~!」
立ち上がれずとも足が自由になればと思ったが、動けば動くほどとりもちが絡み付いて束縛されてしまう。
「思ったより粘着力強いですね……」
「どこまでマイペースなの智美……ってか、早くしないとホントに帰れなくなる~!」
ネチャネチャと音を立て汗ととりもちにまみれながら、私たちは三メートル先のロッカーに手を伸ばし続けた。

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