『Very x』

懐かしい匂いがした。
机から微かに漂う材木の香り。
懐かしい音がした。
放課後に響く部活動の掛け声。
瞼を開けるよりも少しだけ早く、私はそこが学校であると気が付いていた。
教室の真ん中で一人、私は机に突っ伏して眠っていたようだった。
他に誰もいない一人ばかりの教室で、冴えない頭で必死に寝る前のことを思い出そうとしたが、何も浮かんでこなかった。
何故私はここにいるのだろう。
寝惚けた頭でも、自分が既にこの学校を卒業したことくらいは思い出せた。
ここは夢の中だろうか。
そっと椅子から立ち上がり、カーテンの隙間から光が落ちていた窓際へ歩み寄る。
風に揺れるカーテンを捲ると、そこには確かに私が三年間過ごした学校のグラウンドが広がっていた。
もしかしたら、と教室から出ようと扉に手をかけるが、接着剤で止めたかのように固く、開かなかった。
両手を取っ手にかけ、渾身で引っ張るもビクともしない。
「痛っ……」
指先が赤く滲んで痛むだけだった。
一体全体何が……夢の中のように思えるけど、不気味なくらいその光景はリアルだった。
もう片方の扉にも同じように力を込めたがやっぱり開かず。
どうしよう。ここから出ることすらできないなんて……。
私は元いた座席に戻り、また突っ伏して瞼を閉じる。
そうしているうちに、背中に何かが触れたような気がした。
起き上がって振り向くも、当然そこには誰もいない。
悪寒がしてすぐにまた瞼を閉じた。
すると今度は左腕に、また何かに触れたような感覚。
まさか、幽霊? 夢の中ならあり得るかもしれない。でも怖い。
私は目を瞑ったまま、その何かが触れた制服の左袖を掴んだ。
「ひゃあ!」
ねとっとした感触に慌てて飛び上がる。
左袖は気持ち悪いどろどろした液体を浴びていた。
糸を引いてテカっている。
「な、なんなのこれ……!」
…………嫌な予感がする。
そーっと手を背中に伸ばすと、背中全体が同じ液体まみれになっていた。
そんな、誰がこんな事を……。
教室には誰もいない。ひょっとして天井?
自分の真上を見上げた途端、顔が冷たい何かに包まれた。
「うぷっ……またこれ…………」
ローションのような、いや、それよりも固くて重い液体が頭からスカートまで汚していく。
「ああ冷たっ!」
今度は背中から、制服と地肌の間に流れ込んでくる。
「もう、どうなってんのよ!」
叫ぶ私の口に、また液体が降り注いだ。
これは夢だ。悪夢だ。
数分の間に私の体はどろどろに汚され、もう立ち上がる気力さえ失っていた。

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