『Welcome To The World』

「う~ん……」
通販サイトの商品ページが表示されたディスプレイを前に、私は唸っていた。
買うべきか買わざるべきか……それが問題だった。
『購入金額2500円以上で送料無料!』
『大特価! 2980円!』
『今なら13%ポイント還元!』
「うー…………」
ただ、もし買ったとして。
果たしてそれが家族に露見されずに私の手元に届くのか。
誰に見られることもなく使用できるか。
痕跡を残すことなく事を終えられるか。
これらの難題の解なくしては、注文ボタンをクリックすることは出来ない。
前もって時間をかけ、綿密な計画を練らなければならない……。
それを理解しているはずなのに、『送料無料』だったり『ポイント還元』だったりの言葉に易々と釣られてしまうのは高校生の性だった。
『時間指定配達にすれば親がいない時に受け取れるはず』
『届いたブツは部屋に隠しておけば誰にもバレないはず』
次第にその物欲は冷静さを欠いていく。
穴だらけの計画を希望的観測というツギハギで覆ってしまうのだ。
私の人差し指はもうクリックボタンを叩いていた。
これで、後戻りはもう出来ない……。
注文した商品名を頭の中で繰り返す。
『業務用ローション4リットル×5』
「さて、どこに隠そう……」

発端は二週間前。
暇潰しに見ている動画サイトで、定期的に配信されているクイズ番組があるのだが、その番組では回答者が間違える度に水をかけられるシーンがある。
それが最近になって水がローションに変えられ、不正解者たちはローションで自分の服を汚していた。
その時垣間見えた、ローションに濡れて光沢を放つ衣服。
糸を引いて滴る透明な液体。
私はそれを見るとたちまち変な気分に襲われる。
それは好奇心なのかも分からないが、行き着いた結論は、『私も服を着たままローションを浴びてみたい』だった。

そんな衝動を抑えきれず、とうとうこうして手を出してしまった。
最近の通販は配送がとてつもなく早いもので、お金を振り込んだら翌日の昼過ぎに届いてしまった。
ろくに考える時間もなく、玄関には大きな4リットルボトルが5本と私。
とりあえず部屋に隠しておこうと階段を上り始めた所で、またヤなことを思い付く。
せっかく4本もあるんだから、1本くらい今使ったって良いかもしれない。
母さんの帰りが遅いことはさっき届いたメールで分かっている。
メールを送った時点で名古屋にいるみたいだったから、あと2時間は絶対安全だ。
問題は……妹。
部活で遅くなるらしいけど、すぐに帰ってこないとも言い切れない。
でも私がお風呂場に篭もってしまえば浴槽に浸かってると思うだろうし、母さんならお風呂場のドアを開けることはあっても、歳の近い妹はそんなことしないはず……。
つまり、今からならできる。
よし。
私はすぐに準備に取りかかる。
クローゼットの奥に温存しておいたスペアの制服、下着、ローションのボトル、タオル、バケツ。
必要な物をまとめて私は階段をかけ下り、お風呂場へ急ぐ。
今から私の身体が、制服が、ローションに包まれる……。
お風呂場に入った私は一度深呼吸をして服を脱いでいく。
下着姿になった後、もう一度深呼吸をしてからワイシャツに袖を通す。
ワイシャツのボタンを留め、スカートを穿いて、ブレザーを羽織る。
徐々に高まる鼓動。
静めようと胸に手を当てても、一度脳内に膨らんだ映像を消すことは出来なかった。
むしろそれは逆効果で、背徳感だけを高めてしまう。
ボトルのキャップをひねり、用意したバケツに中身を注ぐ。
トロトロとした粘性のある液体が、ゆっくりとバケツを満たしていく。
バケツに半分くらい溜まったところで、ボトルのローションが尽きた。
「思ってたより多いな……」
よくよく考えれば4リットルは2リットルペットボトル2本分に相当する。かなりの量だ。
どうやって使おう?
足から頭にかけてゆっくりかけるか、頭から勢い良く被るか……。
あんまり悩んでられる時間もない。
ここは無駄な時間をかけず一気にーー。
「ただいまー、お姉ちゃん」
しまったぁ!
外からくぐもった妹の声が聞こえてきた。
そんな……いつもより一時間以上早く帰ってくるなんて!
でも流石にお風呂場を勝手に開けて覗き込んでくることはない、はず……。
妹が洗面所の引き戸を開けて入ってくる。
「あれ? お姉ちゃんお風呂入ってるんだ。珍しいね、こんな早くに」
妹の何気ない一言に、いつも以上のプレッシャーを感じる。
ドア一枚隔てた先に、何も知らない妹がいる。
制服姿の私とバケツに入ったローション。
こんな状況を見られたら、言い逃れは出来ない。
いや、もしかしたら磨りガラス様のドアから見える制服の濃紺でもうバレてるかもしれない。
何もしないよりかはと、わざとらしくシャワーをひねり、それらしい物音を立てる。
お願い……最後のドアを開けないで。
「お姉ちゃん」
「お、おかえり……」
妹の声のトーンがさっきよりも低い。
シャワーは狙いすぎだったか……。
「どうしてメガネ置いてないの?」
「えっ」
「メガネかけてお風呂場に入ったって、曇って何の役にも立たないよね? どうして持って入ってるのかな? いつも洗面所に置いて入ってるのに」
「え、あ……それは…………」
どうして。どうして気付かなかったんだろう。
いつもより浴槽が、鏡に映る自分が、シャンプーのラベルが鮮明に見えることに。
そうだ、メガネを洗おうとしてたってことにすれば誤魔化しが効く。
「め、メガネを洗おうと……」
「換気扇も止まってるよ? いつも必ずつけてるのに」
ああ……お風呂場に入った本当の目的が入浴じゃなかったから、換気扇をつけ忘れてしまったんだ……。
「……わ、忘れてて」
苦し紛れの言い訳だった。
偶然だと言いたくても、こんな偶然が二つ重なることは普通ない。
今の私は誰がどう見てもアヤシかった。
「お姉ちゃん」
「……う、うん……」
「何か、服を着てるのかな」
やっぱりドア越しでも気付かれてしまった。
「本当のことを教えて欲しいな」
「ごめん……」
「開けるよ」
妹の洞察力を甘く見てしまった。
最後のドアが開けられ、妹の視線が私に向けられる。
その視線が、すごく痛い。
「……何してるの? 制服着て」
「…………」
「バケツ……」
バケツの中に手を入れ、かき混ぜる妹。
挙げた手からローションがだらりと落ちる。
「これって、ローション……?」
「うん……」
「ふーん」
ローションに濡れた掌と、制服姿で縮こまる私とを妹は何度も視線を行き来させる。
「お姉ちゃんもしかして、こうされるのが好きな人?」
妹がローションまみれの手を私のスカートに絡ませてくる。
ああ……そんなことしたら私の制服が……。
ローションを塗られ、光沢を放つスカート。
顔を赤らめてぼーっとしていた私のことを察したのか、妹は両手を使ってスカートからブレザーにかけて汚していく。
腰から胸をねっとりと、胸から首を優しく撫でるようにして。
片腕を背中にまわして、同じようにローションを塗りたくっていく。
私にスイッチが入った頃、妹の様子も変わっているのに気付いた。
私に塗っていたローションで、今度は自身の制服を汚していく。
「すごい……制服汚してるのに、楽しい……」
二人の制服がローションに包まれ、ぬちゃりと音を立てる。
「お姉ちゃん。私にも……」
妹の制服にもローションを塗っていく。
手で掬い取ってワイシャツの中に入れたり、バケツを持って豪快にかけたり。
「この、身体が包まれるような感覚……嫌いじゃないかも」
「私も。病みつきになっちゃいそう」
バケツの中身を使い切る頃には、二人とも頭から足までローションまみれ。
私はメガネにローションがこびりついてしまって、かけている意味がないに等しかった。
メガネを外して妹に語りかける。
「実はね、まだローション持ってるの」
「ほんとに? じゃあまた遊べるね!」
「また、やろっか」
「うん」
「でも、母さんには内緒だよ?」
「分かってる。二人だけの秘密だよ」
そう笑顔で答える妹の体を私はシャワーで流してあげた。

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~あとがき~

初投稿が遅れて申し訳ないです。
最初ということで、オーソドックスなWAM小説を書いてみました。
ローションって素晴らしい。

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